朝、庭を歩いていると、木の幹に茶色の蝉の抜け殻を見つけました。
小さな体で、土の中から出てきて、
下の方からえっちらこっちら、
ここまで登ってきたのでしょう。
その姿を見ていると、ただの抜け殻なのに、
そこに一つの物語があるように感じます。
蝉の一生は、長い長い時間をかけて始まります。
夏、蝉は木の枝や樹皮に卵を産みます。
卵からかえった幼虫は土の中にもぐり、
木の根の汁を吸いながら成長します。
種類によっては2〜10年以上。
暗い土の中で何度も脱皮を繰り返し、静かにその時を待っています。
そして夏の夜。
準備を終えた幼虫は、ようやく地上へ出てきます。
木に登り、最後の脱皮をするとき、残される殻。
それが「空蝉(うつせみ)」と呼ばれる、蝉の抜け殻です。
成虫になった蝉は、木の汁を吸いながら短い夏を生きます。
アブラゼミは「ジリジリジリ……」と、
ミンミンゼミは「ミーンミンミン……」と鳴き、
夏の庭に命の声を響かせます。
オスは声でメスを呼び、交わり、
メスは次の命を残します。
そしてまた、新しい命が土の中へ向かっていきます。
蝉が地上で過ごす時間は、ほんのわずか。
けれど、その短い時間を、精いっぱい生きています。
声が止まったあと、
地面に横たわる蝉を見ると、少し寂しい気持ちになります。
でも、蝉は最後まであきらめません。
皆さんも一度はありませんか。
もう動かないと思って、道に落ちている蝉を拾おうとした瞬間・・・
突然、大きな鳴き声とともに羽をバタバタと震わせて、驚かされたこと。
最後の最後まで、生きる力を見せてくれるのです。
蝉の抜け殻を「空蝉(うつせみ)」といいます。
この言葉には、どこか「はかなさ」やもの悲しさを感じます。
けれど、この小さな抜け殻を見ていると、
それ以上に長い年月を土の中で耐え抜いた証のように思えるのです。
長い間、土の中でじっと時を待ち、
ようやく迎えた夏。
新しい世界へ旅立つために脱ぎ捨てた小さな殻。
その抜け殻は、もう役目を終えたものかもしれません。
でも、私にはそこに、
長い年月を生き抜いた証と、
精いっぱい命をつないできた力強さが残っているように思えるのです。
庭の木にそっと残る小さな空蝉(うつせみ)。
夏の終わりには見過ごしてしまいそうな小さな存在ですが、
そこには、一匹の蝉が歩んできた長い時間が詰まっています。
ホテルセラヴィへお越しの際は、
蝉の声だけでなく、木の幹や葉っぱの裏側にも少しだけ目を向けてみてください。
